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上海レクイエム・2

 一章 鈍いナイフ・1

 香港には、まだ手を出さない。ユンとシオウの意見は、それで一致していた。香港は、古くから中国裏社会で根を張る『チャン氏一族』のテリトリーである。ここ上海もかつては彼らの支配下にあったが、粘り強い戦いの末、いまはなんとか手中におさめている。彼らの古参の仲間である中国人のワンロンがリーダーを務める同盟グループ『マオジンシー』のテリトリーとして。
 ユンとシオウは、徐々に、だが着実に彼らのテリトリーを広げつつある。
「あせらなくていい。少しずつ、固めていこう」
 ユンは、しばしばそう口にする。普段は電光石火、思考と行動の間にある時間が極端に短い(時に、行動が思考を追い越しているようにも見える)くせに、待つべき時には周囲から能天気にみえるほどの忍耐力を発揮する。それが、ユンだ。
 いまもまた、能天気な顔で、
「凪に会いに行きたいな。次はいつ頃日本に行けるんだ?」
 と優雅にコーヒーを啜りながらきくので、シオウは額に浮きかけた血管を努力しておさえねばならなかった。
「たぶん、来月初旬……いや、今月末には。……いや、その前に! ツァンインから一度会って話したいって言ってきてる件なんだけど、返事はどうする?」
 さっきから、ずっとその話をしているのだが、どうやらユンはまるきり別のことを考えていたらしい。シオウは両手で頭を抱えたくなったが、日中の混んだカフェの中、ありったけの自制心を総動員してこらえた。
 ユンとシオウはいま、『ティエンズファン』という地区にあるカフェにいる。中国のSOHOとも呼ばれるティエンズファンにあるこのカフェは、場所柄外国人客が多く、二人が上海での居宅として使用している家屋からも近いため、よく利用している。
「今日はひときわ混んでるな」
 ユンは迷惑そうにそう周囲を見回した後、
「ツァンインか」
 と興味無げにつぶやいた。
『ツァンイン』とは、チャン氏一族の長老張周平のことである。齢八十を超す老身でありながら、いまだに実権を握り、一族のボスとして君臨している。
「面倒だな。……が、無視するわけにはいかないか。シオウ、行ってくれるか。俺はやめとく」
 これはユンのわがままであったが、その方がいいだろうと思ったので、シオウはあえて逆らわず「了解」とうなずいたあと、
「……ちょっと気になることがある」
 と、小声でつぶやき、そっと周囲をうかがった。カフェは、様々な人種でごった返している。地元の学生らしい集団、観光客らしい白人男性、カップルやかしましい女性のグループ……見たところ、聞き耳をたてていそうな人物はいないようである。
「気になること?」
「日本の『餓鬼』の件だ」
 先週、ショージがリーダーを務めるグループ・餓鬼で、死者が三人出た。無論、病死でも自殺でもなく、他殺である。三人の死体が発見された現場の状況から、敵対グループから襲撃されたのではなく、お互いが撃ちあった末、結局全員が死んだのだろう、と警察では見ていた。
「あれからショージもいろいろ調べたらしいんだけど、結局どこからも死んだ三人が関わっていたと思われるようなトラブルは見つからなかったそうだ。ショージが言うには、ひょっとしたら三人のうち誰かが、敵対者に雇われて二人を殺そうとしたが、撃ち返されたんで自分も死んでもうたんやないやろうかって」
 シオウはそうショージの関西弁を真似てみせながら、周囲の喧騒に耳を澄ました。二人はいま日本語で会話をしている。(ちなみに二人とも母国語は韓国語であるが、身元を知られることはあまり好ましいことではないので、極力使わないようにしている)。周囲に日本人らしき人が見当たらないと確認した上でそうしているのだが、話の内容が物騒であるため、つい周囲が気になった。
「……つまり、チャン氏一族が三人のうち誰かを雇って、仲間割れさせたと言いたいのか?」
 ユンは、まるで気乗りしない声と顔つきで、シオウがこの話題をチャン氏一族の話のすぐ後にもってきたことで言外ににおわせた推測をずばりと口にした。
「そんな小競り合いを、わざわざ危険をおかして演出することに何の意味がある?」
 そう言い足し、カップに残ったコーヒーをごくごくと飲み干す。ユンたちの『組織』とチャン氏一族との関係は、いまのところそれほど悪くはない。はっきりと盟約のようなものを結んでいるわけではないが、お互いの領域をおかさぬよう、双方が細心の注意を払って平穏を保っている状態といっていい。
「ツァンインは無論、上海や台湾といったかつてのテリトリーを取り戻したい気持ちはあるだろう。だが、いまそのための戦いを起こすとは思えないし、せめて鉄砲玉を雇ってショージを狙わせるとかならまだしも、小さな仲間割れを単発で起こしたところで、餓鬼はびくともしないだろう。……もちろん、どんな可能性も捨て去るわけにはいかないが……」
 ユンの分析に、シオウは苦笑いで答えた。
「わかってる。俺も、そこまで本気で考えてるわけじゃない。……けど、ツァンインは喰えない人物だ。一体何を考えつくか知れたもんじゃない。一応その線も、頭の片隅に入れといてくれ」
「……慎重だな」
 シオウの説得に、ユンはちょっと笑みをこぼした。慎重はシオウの美質だと思う。それがあるから、ユンは思い切った思考を保てる。
 シオウは、ユンの言葉に少し首をかしげた。
「ていうか……、餓鬼はショージがよくまとめてるからな。あんなトラブルが起こったのが、ふしぎで」
「それはわかる」
 ユンは即座にうなずいた。アジア支部のボス、という立ち位置に立つユンは、アジア各地にある大小様々のグループを統率しているが、中でも、餓鬼はショージを中心によくまとまっており、屈指の精強さを誇る。
「だが、心配しすぎるのもよくはない。餓鬼はメンバーも血気盛んなやつが多いし、俺たちの世界じゃそんなに珍しいことでもない」
 ユンはおおらかな口調で言い、でもそれは、明らかにシオウをなだめるためだけに口にされたセリフのように響いた。
 要するにユンは、この一件をあまり重くは見ていないらしい。
 シオウはそう察し、さらにシオウの目から見てもこの一件は血気盛んな連中の行き過ぎたケンカの末路とみるのが一番妥当であるように思われたのだが、どういうわけか、何かがしっくりこない気がして、シオウは内心だけで首をかしげる。
 そんなシオウの様子を見て取り、ユンはあっけらかんとした口調で、
「それも含めて、早いうちに日本へ行こう」
 と提案してみたのだが、何故かシオウは恨めし気な目つきでユンを見た。
 ……まあ、心配しすぎるのもよくはないのかもしれないが、たまには心配や不安を手伝ってくれてもよいではないか。
 という気がしたのだが、これは八つ当たりであると自分でもわかっていたので、口から外へは出さなかった。
 ユンの脳みその中には、常にアジア全域や世界地図というものが入っているようで、そういう大局(マクロ)からものごとを考える習性がついてしまっているらしい。その分、細かいあれこれの負担は、大きくシオウの肩にかかってくる。そして、トラブルというものは、大局には大きく影響のない細かいことの方が圧倒的に多い。
「……お前、天下泰平でいいな」
 シオウがついそんな愚痴をこぼすと、ユンはあっさりと笑い、
「天下は、泰平だよ。戦ってるのは、俺たちだけだ」
 と、カフェの中を見回してみせる。確かにカフェの中だけ眺めていれば、そこは泰平としか言いようのない状況で、むしろ物騒な心配ばかりしている自分の方が馬鹿みたいに思えてくる。シオウは肩をすくめ、
「出ようか」
 とユンが腰を浮かしかけたときであった。
 まるでそのタイミングを待っていたかのように一人の男が、二人のテーブルへ近寄ってきた。立ち上がりかけていたユンは、不意を突かれたような格好になり、腰を中途半端な位置に浮かせたまま、
「……なんだ?」
 と鋭く男を見た。見るからに異様な風体の男だった。まず目を引くのは、その頭だ。髪を中央から左右に、赤と緑に染め分けている。そして真っ赤なTシャツに、流れるような白い筆文字で、『戦国乱世』の四文字。見ていると目がちかちかするような出で立ちである。
「……何か御用ですか?」
 シオウは座ったまま男を見上げ、こいつが日本人であるか確認するつもりで(状況から見ればその可能性が高いが)、そう問うた。謎の男に気づかれぬよう、さりげなく右手を背後に回し、隠し持っている拳銃の銃身を握る。
 男はシオウの方に顔を向け、恐ろしいほど無邪気な笑顔で細かく数回うなずいた。そして右手に持っているタバコの箱をかざしてみせ、左手でライターの火を点けるような指の動きをしてみせる。その間、男は終始無言であった。
「……?」
 困惑したシオウは、ユンに目を向けた。ユンの方は、とりあえず危険はないと踏んだらしく、中途半端に浮かせていた腰を改めて伸ばしながら、
「どうやら口がきけないらしいな」
 と、どちらに向かって言うともなくつぶやいた。男は相変わらず笑顔をはりつかせたまま、また何度も細かくうなずく。ユンの言葉を肯定しているらしい。
「えっと……、ライターが欲しい、のかな?」
 男が再びライターをつけるような指の動きをするのを見て、シオウはそう推測してみせた。我が意を得たりとばかりに男が何度もうなずく。シオウは自分のライターを上着のポケットから出して渡しながら、
(こいつ、口がきけないふりをしているんじゃないだろうか)
 どういうわけかそんな疑いがふと胸をかすめたのだが、それだとすると目的がよくわからない。
 男はライターを受け取ると、自分のジーパンのポケットにそれを入れるような仕草をしてみせた。それから、問うような眼差しでシオウを見る。どうやら、「もらってもいいか?」ときいているらしい。
(図々しいな)
 シオウは内心でそうあきれたが、特に惜しむようなものでもないので、くれてやることにした。
「おい、お前」
 目的を果たした男が立ち去ろうとした瞬間、ふいにユンがそう男を呼び止めた。今度はシオウが、立ち上がりかけた中途半端な姿勢で動作を停止する。
「その指輪、かっこいいな」
 きょとんとした顔で振り返った男は、ユンの褒め言葉ににっこり笑って、ピースサインをしてみせた。その立てた人差し指と中指に、竜の形をした銀色の指輪が一本ずつはめられている。
(二、竜。……まさか、な)
 シオウは中途半端な位置に腰を浮かせたまま、ユンと男を見比べた。男はピースサインをおさめると悠々とした足取りで店の奥の方へ去っていき、ユンは店員を呼び止め、会計を済ませると、
「行くぞ」
 と、店の出入り口へと向かう。シオウはもう一度男の方へ目を走らせた。男は一番奥まった席で、店員にメニューを見せている。おそらく指差しで注文を伝えようとしているのだろう。遠くから見ても目立つ緑と赤の頭。……変なやつだ。シオウは男から視線を外すと、ユンを追って店を出た。
「……妙なやつだったな?」
 さっきからユンの態度に疑問を感じていたシオウは、ユンに探るような目を向けた。
「お前、なんか知ってるのか?」
 重ねて問うと、ユンはちょっと肩をすくめ、
「別に。全然知らないやつだ」
 とつぶやいた後、
「ただ、あいつ、俺の方にはライターをねだらなかったな、と思って」
「……あ!」
 そういわれればそうだ。シオウは思わず店の方を振り返った。とっくにドアは閉まっているため、店内の様子は見えなかったが。確かにあの赤緑の男は、しきりとシオウの方を向いてライターが欲しいという意思表示をしていたようだ。シオウはタバコを吸うが、ユンは吸わない。そのことを男はあらかじめ知っていたのだろうか。ユンは更に、
「それにあの店、全面禁煙だしな。わざわざあそこでライターを手に入れようとするのも不自然だ」
「……じゃあ、あいつ、俺たちのこと知ってて声をかけてきたのか?……何のために?」
「さあな」
 シオウの疑問に、ユンは少し首をかしげ、
「でも、たぶん、ライターが目的じゃなかっただろうな」
 と結論してみせた。
「……」
 シオウはユンの結論に無言でうなずき、もう一度店の方を振り返る。あの奇抜な男の何かが気がかりとなって引っかかっていたが、その気がかりの正体を見極めることはできなかった。

                 *

 葬儀は、ごくごく小さなものだった。警察から帰ってきた三人の遺体のうち、二人は彼らの身内が引き取っていったが、残る一人(ゴトウという男だ)は引き取り手もなく、結局ショージが組織を代表して彼を弔ってやることになった。
「けど、あいつら、なんだってまた撃ち合いなんかしたんでしょうねぇ?」
 ショージの私設秘書を自認する男、アヤセはそう首をひねった。あいつら、とは、死んだ三人、ゴトウとイワサキ、そしてカワタのことをさす。
 アヤセは無論、餓鬼のメンバーであが、血気盛んなこのグループには珍しいことに、荒事は好きではない。それどころか学生時代にグレたことさえない。それなのにバイトに入った店が、たまたま餓鬼の息のかかった店だったのが縁で、なし崩し的に裏社会へ引きずりこまれたという異色の経歴の持ち主である。諸事小回りがきき、餓鬼のメンバーがたいてい苦手とするようなこと(例えば本日の葬儀の手配や段取りなどといった仕事)が得意であるため、意外に重宝されている。
「さあな」
 人里から離れた小さな葬儀場からゆっくりと外に出ながら、ショージはふと空を見上げた。馬鹿馬鹿しいほどいい天気だ。お経の間じゅう外していたサングラスをつける。
「結局問題は、どいつが先に撃ちやがったかってことっスよね」
 ショージの半歩後ろを歩きつつ、アヤセは他人事のような口調でそう指摘した。事実、他人事だと思っていた。仲間の死は悲しくも由々しき出来事であるが、先述した通り、アヤセは自分を雑務専用のショージの私設秘書であると認識している。荒事は、自分以外の人々の仕事である。
「……お前はどない思うんや」
 警察は、三人が撃ち合いの末結局全員死んだと見ており、ショージも彼の仲間たちもそう思っている。問題は、とショージは胸の内だけでつぶやいた。アヤセの言う通り、どいつから先にケンカを売ったか、ということだ。アヤセは「う~ん」とひと声うなってみせ、
「……そりゃ、やっぱ、ゴトウさんじゃないっすか。イワサキさんとカワタさんは、餓鬼の生え抜きでしたし、仲がよかったように見えましたけど。ゴトウさんって、どっか他の組から移籍してきたんでしょ? 表面上は他の人たちとうまくやってるように見えたけど、内心は違うもんがあったんじゃないですかねぇ」
「アヤセ」
 ショージは、咎めるような口調でアヤセの推理を中断させた。
「『組』は、やめろ」
 俺たちは組合員ではない、という意味を込めてそう訂正し、
「……ゴトウが、なんや、そう思わすような素振りでもあったんか」
 と問うた。ゴトウは以前、『二竜会』にいた。グループがリーダーのリュウジの決定のもとに解散に至ったとき、半数ほどの者がその場で足を洗い、一般社会へ帰っていったのだが、残る半数は「もはや普通の生活には戻れない」と裏社会に残り、そういった連中のほとんどが、いまは餓鬼のメンバーとなっている。ゴトウもその一人だ。
 ショージの問いに、アヤセはちょっと首をすくめた。
「いや、別にはっきり何かあったわけでもないんですけど。でもほら、旧主忘れ難しっつーか、あるんじゃないですか、そういうのが? それにあいつが、もといた二竜会って、リーダーの一存で解散になっちまったっていうじゃないですか。なんかその辺も、内心納得してねぇみたいなとこ、あったんじゃないですか」
 アヤセは意外と事情通である。根が野次馬根性の塊なので、噂話に目がないせいであろう。
 ショージは横目でアヤセをにらみ、
「……めったなことを憶測で言うな。餓鬼には他にも元二竜会が大勢おるんやぞ」
 と釘を刺す。アヤセは、すかさず「すみません!」と謝ったが、ショージはその方をもう見ていなかった。
 面倒なことになった、とアヤセに見えないところで顔をしかめる。二竜会が解散し、リュウジが死んでから一年が経とうとしている。それは言い換えれば、元二竜会の人間が餓鬼に入ってから一年ということで、ようやく状況が落ち着いてきたと思っていた矢先のこの事件である。
 おそらくもともと餓鬼にいた連中はアヤセと同じ感想というか推測を持つであろうし、そうである以上、元二竜会の面々は、あまり愉快でない思いをするに違いない。
 今後起こりうるトラブルを頭の中に想定し、ショージは軽くため息をついた。アヤセはちょっと首をすくめ、
「まあ、でも、結局ゴトウさんも死んじゃったわけだし。何があったにせよ、それでトントンってことになるんじゃないっすか」
 と、なんとなくとりなす。ショージの機嫌取りは、アヤセの重要な職務の一つである。
「トントンか。……そう問屋が卸せばええけどな」
 アヤセの「トントン」という表現が面白かったショージは笑いながら言い、
「……まあ、死んだら皆仏さんや。餓鬼も二竜会もあらへん」
 と何か吹っ切るような口調で付け足す。何をどうほざいても、ゴトウもイワサキもカワタも既にこの世にない以上、後のことはこの世にいる者たちで何とか始末をつけるしかない。
 移動する際の車の運転は、アヤセの重要な職務の一つである。
 仲間の死というたまに起こる事態について、ショージはひとつの哲学を作り上げてしまっている。助手席に身を沈めつつ、
「……しかしまあ、この世界に入った瞬間、俺たちは死んだも同然の身や。まっとうな世界の人間から見れば、俺らは『人間』やない、死んで動かんようになるんが当然の連中や。……そういう意味では、裏社会ちゅうんは、死人の群れや。あの三人は、動かんようになって、ようやくまともな死人になった、ちゅうこっちゃな……」
 と、ついそれを口に出した。それをきいたアヤセは、ハンドルを握りながら首をすくめ、
「じゃ、ショージさんも俺も死人ってわけですか。死人なのに動いてるって、それ、普通に『ゾンビ』ですよ」
「ゾンビ?」
 ショージはゾンビを知らなかった。彼は映画もみないし、本もあまり読まない。新聞は数種類読むが、芸能欄やエンタメ欄には興味がないので読まない。アヤセが、ゾンビが映画やゲームに出てくるモンスターの一種であることを説明すると、ショージは「へぇ」と心の底から興味を持っていないことが分かる声を出した。アヤセはまた首をすくめる。
「……ところで、ショージさん、リュウジってどんなやつだったんすか?」
 エンジンをかけながら、アヤセはできるだけさりげない口調できいてみた。いま話題の二竜会の元メンバーたちは、ショージに遠慮してのことか、めったにリュウジの名を口にしない。しかし何かのはずみで時折古巣の話となり、その名を口にするとき、どこか慈しむような、心の底から不在を寂しがるような表情をする。これほど仲間たちに愛されていた『リュウジ』とは、一体どんな男だったのだろう。
「……妙な男やったな」
 アヤセの質問に一拍置いて考え、ショージはやや不正直な答えを出した。死んだ者の悪口は言いたくない。正直なところ、ショージはリュウジに対し、「子供じみた」という印象を持っていた。二竜会に解散という選択肢を迫る交渉は、ショージが受け持った。当時、二竜会はショージの目に不良少年に毛が生えた集団で、リュウジはそのガキ大将であるように見えた。リュウジは、ともすれば感情的になり、話し合いは穏やかなものではなかった。ショージがそれでも粘り強く話し合いという手段にこだわったのは、それでも、リュウジという男が決して嫌いではなかったからだ。
「たぶん、天才的なところはあったんやろうな。二竜会っちゅうのは、基本リュウジが一人で組み立てて育て上げたグループや。……それを育てきる前に潰せたんは、運が良かったっちゃよかったかもしれんな」
 最後の部分は、ややお世辞として口にした。死んだゴトウと、リュウジへの供養のつもりだった。
「……要するに、リュウジって人、ワンマンなタイプだったんですか?」
 アヤセは内心で首をひねりつつ言った。どうもアヤセが耳にした『リュウジ』像とは、違う評価をショージは持っているらしい。
「そういう言い方もできるが」
 ショージは曖昧に笑いを含んだ口調で言い、
「けど、責任感が強すぎて、全部が全部一人で背負いこもうとする性質やった、とも言えるな」
 その答えは、アヤセには不満であった。
「だって、そんなの言い方の問題じゃないですか……ぐおっっ!?」
 それは言い方の問題ではなく、見る者の立場によって変わる話だと思っていたショージは、訂正する代わりにアヤセの脇腹をどついた。どつかれた拍子に車が揺れ、危うく対向車線にはみ出しそうになり、アヤセは慌ててハンドルを操った。
「ショ、ショ、ショージさん、運転中は勘弁してくださいよ! 俺、ゾンビでもいいから、まだ動いていたいっす!」
 アヤセは軽く半泣きで抗議したが、ショージは鼻で笑っただけでとりあわなかった。無論、前にも後ろにも対向車線にも車がいないことを確認してからどついたのである。
「しかしまあ、ワンマンは置いといても、リュウジっちゅうのは、ちょいと自分勝手なところがあったかもしらんな」
 アヤセの講義を無視して、話をリュウジに戻す。
「あいつが解散に踏み切ったのは、ひとつには餓鬼との全面衝突を避けるためもあったんやろうけど、もうひとつは、自分が作った二竜会がでかくなりすぎるんも、それはそれで嫌やったらしい」







 
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ふじきよ なお

Author:ふじきよ なお
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オリジナル長編小説中心の小説ブログ。長編小説『リオデジャネイロ・ライジング』完結。長編小説は『上海レクイエム』以降同シリーズの続編となっております。『ダチョウが空を飛んでいる』ぬるりと連載再開。どうぞごゆるり……。

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