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バルセロナ・テンペスト・9

 三章 ALEJANDRO・2

 スモは、思い出そうとするように首をひねりつつ、
「……それこそ、ゴマンといるんじゃないか。ここに住んでいる連中だって、ここに住みたくて住んでいるやつらばっかりじゃない」
「そんなことはない」
 アレハンドロは、頑として首を横に振った。
「ここに住んでいる連中は、ここにしか住めないから、ここにいるんだ。よしんば小金を貯めてもっとマシな場所に引っ越す連中がいたとして、でもそういう連中は理由もなく姿を消したやつ、の中には入らないだろう? 無論、そういう類の連中のことなら、当然誰かの耳には入ってるはずだ。俺が言ってるのはそうじゃなくて、引っ越したのでもなく、ここにいられなくなる理由を誰も知らないのに、最近突然姿を消したやつがいないか探してみてほしいんだ」
「探す?」
 スモは、きょとんと丸くした目を、ますます丸くした。次いで不機嫌に顔をしかめ、
「ごまかそうとするのは、よせ!」
 と決めつけたのだが、それに対するアレハンドロの答えは、
「ごまかしじゃない!」
 で、一瞬スモは、アレハンドロの気迫にのまれた格好となった。すかさずアレハンドロは、その機を逃すまいと、
「いいか、よくきけ、詳しくは言えないが、いま、デサストレ地区に大きな危険が迫ってるんだ。もし、俺が思っている理由で、誰にも何も言わずに消えた野郎、を見つけることができれば、そいつを食い止めることができるかもしれない」
 と畳みかけた。スモは数秒の間、あっけにとられたようにアレハンドロの顔を見つめた。アレハンドロの頭が何らかの理由でおかしくなったのではないか、という疑念が彼の脳裏をよぎったのであるが、アレハンドロはスモの表情から、いち早くそれを察し、
「俺は、正気だってば!……いまは、詳しいことは言えない。言っても、お前には信じられないだろうから。俺だって、まだちょっと信じられないような気が、どこかしてるし。
 だけど……もし俺の推測が当たっていたら、とてつもなく大変なことになるかもしれない。頼むよ、スモ、いまは何も言わず力を貸してくれないか。デサストレ地区を守れるのは、たぶん、俺とお前だけなんだ」
「…………」
 スモは、さらに数秒、アレハンドロをにらんでから、大きなため息をついた。
「……いいだろう。これが他の野郎ならぶっ殺してやるとこだが、今回だけは特別だ」
 ため息ついでに、そう吐きだす。アレハンドロの目の真剣さと気迫に圧倒されたような気分である。
 が、次の瞬間、スモは表情を心配そうなものにし、
「……アレハンドロ、お前は友達だから忠告しといてやるが、……お前、まさか違法な薬に手を出してんじゃねぇだろうな? あんまり強い薬は、やるんじゃねぇぞ。お前が、らりぱっぱの世界から戻ってこられなくなってる姿なんて、俺ぁ見たくないからな?」
「…………」
(これを言ったらそう思われるだろうと思って言わなかったことをつい言ったら、やっぱりそう思われた……)
 アレハンドロは顔面にほほ笑みを張りつけたまま、ちょっと遠い目をした。が、何とか気を取り直し、
「……俺は、強い薬も弱い薬もやってない。完全に正気だ。とにかく頼んだぞ。絶対に頼んだぞ」
 と重ねて頼むと、スモは何とも言えぬ表情で、
「ああ、そうか、よしよし、お前はデサストレ地区の救世主なんだな? 俺もがんばるから……お前も、その、なんだ、……早くらりぱっぱの世界から戻ってくるんだぞ?」
 と、あやすような口調で言った。アレハンドロは……ますます遠くを見る目つきになった。
「……俺は、どこの世界にも行ってない。……でも、いいや、もうどうにでも思っててくれ。とにかく頼んだことさえやってくれれば、後はどうでもいい。くれぐれも、よろしく頼んだぞ」
 と、アレハンドロは半ばヤケクソで、そう言いつのった。何かや誰かを救うために戦うって大変なことだ、と心の底から思う。

     *

 アレハンドロがスモを訪ねている間、セルヒオとエンリケはフェデリコの店、『バモス! ゴラッソ!』にいた。今日は特別そうしている、というわけではなく、アレハンドロを加えたチーム『バルカス』の面々にとって、それはいつもそうしているごく当たり前の日常なのであるが、この日は、いつもとやや調子が違っていた。
 薄暗い。
 それは何もフェデリコが切れた電灯の付け替えをさぼっているばかりではない。さっきから延々と続くセルヒオの愚痴、スモに呼び出されたアレハンドロ(『制裁』という不吉な言葉が一同の脳裏をよぎっては消えていた)、そしてデサストレ地区に迫っている危機というアレハンドロの『推測』が、セルヒオの部屋の変死体という姿で強烈に現実味を帯びたことが、いつもは明るい彼らの顔を曇らせているのである。
『エンリケの家にいたというれっきとしたアリバイを警察が信じてくれなかった件』について途切れることなく続いていたセルヒオの愚痴が、さすがにしゃべり疲れて止むのを待って、フェデリコがぽつんとつぶやいた。
「……俺たち、殺されるのかな」
 フェデリコは、基本的にあきらめのいいたちであった。
「バカ、いま、そうならないように、アレハンドロが、がんばっているんじゃないか」
 と言い返したのは、アレハンドロを慕うこと神のごとし、自他ともに認める『アレハンドロ信者』のエンリケである。
「誰がバカだ。……しかし、アレハンドロがどんなにがんばっても、いかにも相手が悪すぎる。本物の軍人だぞ。……俺も、もうちょっとは長く生きるつもりだったんだが……」
 とフェデリコはつぶやいたが、その声の調子は無念というより、静かに避けられぬ運命を受け入れようとする者の覚悟をもって響いた。
「あきらめるなって言ってるだろ! アレハンドロが何とかしようとがんばってるのに、全部一人でやらせる気か? 僕らだって、せめてサポートしてやらないと……」
 とエンリケは力強くわめいたが、
「そりゃ……俺だって、あいつ一人に全部おっかぶせて逃げる気なんて毛頭ないけどよ」
 と、いつもは能天気なセルヒオも今日ばかりは浮かぬ顔つきで、
「……でも、俺らに、何ができんの?」
 と言う。
 これは、難問であった。『あきらめ最速男フェデリコ』『元気とのん気だけが取り柄のセルヒオ』『ゲームオタクのアレハンドロ信者エンリケ』……ここにアレハンドロを加えれば、チーム『バルカス』が出来上がる。ちなみに『バルカス』とは、大昔スペイン含むイベリア半島を拠点に古代ローマ軍と戦った亡国カルタゴの武将からとったものである。
 チーム名は勇猛であるが、しかしそれは決してチームの内実を表すものではない。しかも相手は名うての傭兵であると同時に名門アルバレス家の一員であるホセである。……いつもは陽気だけが取り柄の三人衆の顔が絶望感に沈むのも当然といえば当然であろう。
 しかしこのとき、いつもは真っ先に弱音を吐くチーム最弱であったはずのエンリケが、意外な強さを見せた!
「あ、でも、たとえうっかりレベルが予定より低い状態でラスボス戦に突入しても、小まめに回復しつつ地道にダメージを与えていけば、けっこう勝てるんだよ!」
 と。
「現実とゲームを一緒に考えるんじゃない!」
「ホセは、ラスボスか?」
 フェデリコとセルヒオは、口々にそうツッコんだ。ちなみに『ラスボス』とは、『ラストボス』の略で、こいつを倒せばゲームはクリアとなる。……さらにちなみに、セルヒオは(ホセもラスボスだと思えば倒せそうな……)気がしてこなくもなかったのだが、それはともかく、そのタイミングで、ようやくアレハンドロが戻ってきた。
「アレハンドロ、無事だったんだね!」
 と顔を輝かせるエンリケに、
「無事に決まってるだろ。……なんぼなんでも、スモなんかにやられやしないよ」
 と首をすくめてみせておいてから、アレハンドロはいつもの席(カウンター席の奥から三番目)に座った。正直なところ、口をきくのもおっくうな気持ちだったが、
「……まあ、でも、行ってよかったよ」
 と言った。体は無事だったが、心にややダメージを負った、と思いつつ、タバコを箱から一本抜く。
「何かあったのか?」
「スモに、最近特に理由もなく消えたやつがいないか、探してみてくれって頼んだんだ。ひょっとしたら、そいつがイサベルを殺してトンズラこいたやつかもしれないだろ」
「……やっぱり、イサベルを殺したのって、デサストレ地区のやつなのかな」
 と、エンリケは、あんまり賛成できない、という風な口ぶりである。というのも、自分をこっそり『デサストレ地区で一番頭のいい人間』と思っているエンリケは、(イサベルみたいないい家の子が、どんな理由があってもデサストレ地区の人と二人きりになるはずがない……)、よって同地区の人間がイサベルを殺すことは不可能だと考えていたからなのであるが、アレハンドロはエンリケの言葉に小さく首をかしげ、
「……どうかな。でも、ともかく、探してはみてくれるって。もし犯人がデサストレ地区のやつなら、そんなオオゴトしでかしといて、いつまでものこのことここに住んでるはずがないって思うから……」
「なんか、アレハンドロ、警察みたいだな」
 愚痴を吐き出しきって陽気さを取り戻したらしいエンリケが、そんな風に感心してみせたが、フェデリコは心配げな顔つきをした。というのも、フェデリコは、
「……けどさ、いまさら真犯人をホセに突き出したところで、何とかなるものかな。ホセは結局、俺たち……デサストレ地区の何もかもが気に入らないだけなんじゃないか」
 と思っていたからだが、その危惧をアレハンドロも持っていたのだろう、少し表情を曇らせ、
「……ともかく、やれることはやってみるしかない」
 と半ば自分に言いきかせるようにつぶやいた。そもそも、と内心だけでその先を付け足す。そもそも、何で俺たちが生きていくのにホセの気に入られなきゃいけないんだ、それだけでも意味が分からないと思うのに、その上気に入らないというだけで殺されちゃたまらない、と。
(ホセって野郎は、俺たちのことを一体何だと思っているんだろう?)
 いずれホセに会い、面と向かって問えば絶望的な答えが返ってくるに違いないと容易に予測のつく疑問を思い、アレハンドロは、はらわたが煮えくり返るような気がした。 
 ……しかし。
 そういうアレハンドロ自身、ふと、もし自分がどこか別の場所に生まれていて、その目をもってデサストレ地区及びそこに住まう人々を見た場合どう思うのだろう、とこれまで何度か想像したことがある。それは、とても悲しい想像だったのだが、それでもというべきか、だからこそというべきか、そのことを思えば思うほど、デサストレ地区は必ず自分が守ってみせる、少なくとも無抵抗にやられたりするものかという意地が闘志となって燃え上がるのを感じるのであった。
「ところでさ、俺たちは、これからどうすんの?」
 ふと、セルヒオが眉をひそめてアレハンドロを見る。
「イサベル殺しの犯人を探すのは、スモに頼んだんだろ? だったら、俺たちは他のこと、すんのか?」
 セルヒオの問いに、アレハンドロはかぶりを振り、
「俺がスモに頼んだのは、ここ最近デサストレ地区から急に消えたやつがいないか調べてみてくれってことだ。イサベル殺しの犯人を探してくれ、なんてスモに言ったって、俺の頭がおかしくなったと思われるだけだからな。……ホセの話も、まだあいつには、してないんだ」
 と説明した。説明しつつ、……まあもうやや手遅れかもしれないが、と遠い目になりかけた。スモは、ちゃんと頼んだことをやってくれているであろうか……。
「…………」
 遠い目になりかけているアレハンドロを前に、セルヒオとエンリケとフェデリコは、そっと視線を見かわしあった。無理もない、と思う。自分たちだって、もし、ホセに関する同じ推測をアレハンドロの口からではなく別の人から聞いていたら、その人の頭がおかしいのだと思うだろう。
 変死体を現実的なものとして見た後のいまでさえ、まだ、なんとなく信じられないような気がしているくらいなのである。
 それに、とアレハンドロは、さらに付け加え、
「それに、イサベルを殺したのは、どこか別の場所に住んでる変態野郎かもしれない……」
「……だったら、それを探すのは、俺たちじゃなく警察の方が、まだしも早いんじゃないか」
 とフェデリコが首をすくめてみせるが、アレハンドロは決然とした口調で、
「警察は、全然犯人を見つけてないじゃないか。事件から一か月も経ってるのに。それに、警察と違って俺たちにはタイム・リミットがあるんだ。手をこまねいてみてるわけにはいかない」
「でも、……そんなこと言われても、何をどうしたら殺人犯なんか見つけられるの?」
 とエンリケが首をかしげると、アレハンドロはようやく表情を柔らかくして、
「ああ、それなら問題ない。ユンとシオウが、私立探偵を紹介してくれるって」
「私立探偵……?」
 フェデリコは、うさん臭そうに眉をひそめてみせた。
「ちょっと待て。私立探偵って、浮気調査とかそういうことをやる人たちじゃないのか。ああいう連中が殺人事件に挑むのは、小説やテレビドラマの中だけのことなんじゃないか」
「あと、ゲームでも、そういうのあるよ!」
 フェデリコの疑念にエンリケが無駄な付け足しをするのに、アレハンドロはちょっと首をすくめ、
「……そうなの? 俺、そういう連中のこと、よくは知らないんだけど。……でも、ユンとシオウの友達だって言ってたから、たぶん大丈夫じゃないか。あの二人の友達なら、使い物にならないようなヘボ探偵ってことは、なさそうな気がするけど……」
 凪がこのセリフをきいたならば、(……泣きわめいたろうか)と思うところであろう。が、無論、そんなこと知る由もないエンリケは、満面に笑みを浮かべて、
「そっか! じゃ、その人に任せておけば、安心だね!」

     *

「アレハンドロのこと、どう思う?」
 いったんアレハンドロたちと別れ、バルセロナによく来た時によく使う宿、のユンの部屋で、シオウは、ふと、そんなことをきいてみた。
 二人にしてみれば、いまのところ、デサストレ地区の災難は、まだまだ身をよじってちょっと避ければ他人事で済む話に過ぎない。無論、『例の老人』がアレハンドロの件に非常に興味を持っているらしいことや、彼ら自身、『スペインにちょっとした友達ができる』という可能性に魅力を感じていないわけではない、という事情もあるものの。
「俺は、気に入ったぞ」
 ユンは、気楽に即答した。
「あいつなら、友達だと紹介しても、ネイサンににらまれないで済むだろう」
 と付け足す。シオウは首をすくめ、
「……いまさらな気遣い、のような気もするが」
 と言ったが、かといって、だからもう気はつかわないというわけにはいかないことは、よくわかっている。
「いまさら、というなら、アレハンドロもそうだろう」
 ユンは、無表情にそれを指摘した。
「まあ……、そうだな」
 それがイサベル殺しの犯人探しのことであることを即座に察し、シオウは複雑な気分でそう同意する。複雑なのは、アレハンドロが、内心で自分のやろうとしていることが「いまさら」だと知っている様子で、それでも何かやらずにいられない気に駆り立てられるようにして動いていることへ同情心もあるが、密かに腹立たしさも感じずにいられないからである。
 それは、ユンも同じことらしく、
「……やっぱり、いまさらかな」
 とシオウが、ぼやく口調で言うのに、「当然だろう」と不機嫌に返し、
「相手は既に手を汚している状況だ。そうである以上、正論をいくらぶつけてみたところで相手が止まるとは思えない。……俺だったら、無駄に終わることが目に見えているイサベル殺人事件の犯人探しなど、絶対にやらない。敵が殺意をもって襲いかかってくるのだから、まずは物理的な防御法なり、いっそ先んじて攻撃を仕掛けること……ともかく、現実的というか物理的な算段を優先するけどな。
 ……だから、結局、一番の問題は、アレハンドロのデサストレ地区内での立場だ。やつは、デサストレ地区の『頭』じゃない。住人たちから信頼されてはいるようだが、だからといって、住人たちがあいつの言うことに従うというわけでもない。要するに武力を背景にしていないから、人望はあっても発言力や統率力といった実際的な権力を持っていない状態だ。
 そういう、いわば無力なアレハンドロには、真犯人を見つけることで、 ホセから攻撃理由を奪ってしまうという消極策の他、できることはそれほどないだろう……」
 そこで、ユンは言葉を切ったが、シオウは声に出さずにその先を継ぎ足した。
 しかし、銃を撃つかどうかの判断は必ず銃を持っている者に委ねられる。アレハンドロがどんなに撃つ理由のないことを説明しても、ホセが撃ちたいと思い、実際に引き金を引けば、銃弾が飛んでくるのである。
 もっとも、ユンとシオウに同盟を求めてきたところをみると、そこに何らかのありえない夢を見るアレハンドロでもなさそうであるが……。
「アレハンドロは……まだ彼からはっきりそうとはきいていないが……俺たちに武力的な援助を求めているつもりだろうか?」
 と、いま、もっとも気になっていることを口にした。
 そこには大きな問題がいくつもある。
 まず一つ目の問題は、ホセとその傭兵部隊相手に単純に武力を投入して戦うとなれば、これはもはや戦争である。うっかり現場が盛り上がりすぎれば、ならず者たちの小競り合いでは済まされない規模の戦いになりかねなく、いろんな意味で双方無事では済まないだろう。
 二つ目の問題は、ユンとシオウの組織の活動範囲が主にアジアであることである。当然彼らの『仲間たち』は、そこにいる。彼らを……それもまとまった人数をスペインへ運ぶには、時間もかかれば金もかかる。
 そんなわけで、三つ目の問題は、アレハンドロに支払い能力がない、ことである。もっとも、だからこそ、アレハンドロも「同盟」というやや無理のある言葉をひねり出してみせたのであろうが。
「たぶん、アレハンドロも、そこまでは期待していない……というか、期待できないことはわかってるはずだ。あいつは馬鹿じゃない」
 とユンはそういった後、眉間に小さくしわを寄せ、
「……何より、俺たちも自分の持ち場でもないネイサンの鼻先で、仕事でもない戦争をやるわけにはいかない」
 これが、四つ目にして最大の難関というべきであろう。その辺のことはシオウもよくわきまえているので、
「……まあ、友達のよしみで『バルカス』のボディガードくらいはしてやるか」
 と苦笑いした後、
「あ、そういえば、ショージに招集かけたんだろ。あいつ、来るって?」
 ということを思い出して確認すると、
「ああ。事情を話したら来てくれるって。ホセと戦うって言ったら喜んでた」
 とユンは、にこやかにうなずいた。シオウは、……ありがたい話だが、ショージも相変わらずだなと思った。
 
 それにしても、アレハンドロという『非戦派』もしくは『平和大使』とでもいうべき人物は、ネイサンの目を意識しなければならないスペインで、ユンとシオウにとって、格好の『友達』候補であるといえよう。
(これも、ジューダスの計算の内なのだろうか?)
 再合流のため手を振りながら近づいてくるアレハンドロを見つつ、ユンは内心でそんなことを考え、不愉快な気持ちになった。
 アレハンドロの斜め後ろには、エンリケの姿がある。凪のために「日本語のできる人間がいたらつれてきてくれ」とユンが注文した結果である。どうやら、エンリケ、日本語が堪能ならしいと、ユンとシオウはここで初めて知った。
 四人が落ち合ったのは『エシャンプラ地区』にある『考える牛』という動物をモチーフにした奇妙な像の前である。この場所を選んだのはユンで、理由は後から来る凪が動物好きだから、という彼なりの気遣いであった。シオウは、それについて、(……なんか、違うような……?)と内心で首をひねったが、その疑問を口に出すことはしなかった。
「二人とも、ここへはあまり来ないのか?」
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